架空のカナダで起こった、現実―――。
グザヴィエ・ドラン監督の作品は
『私はロランス』→『マイ・マザー』→『胸騒ぎの恋人』と観て、4本目。
初めて彼の作品を劇場で鑑賞出来ました。ちなみに『トム・アット・ザ・ファーム』はこの次の鑑賞になりますね。
パンフはこんな感じ。
映画のパンフレットというよりは、アート雑誌のよう。グザヴィエ・ドラン監督の美麗なお写真が沢山載っているので、ファンは大喜びの一冊ですね。個人的に、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した時のスピーチが載っているのが興味深かったです。
来場者特典として、ポケットティッシュが配られていました。
裏はこう。もったいなくて使えません!!!!
【映画情報】
【原題】Mommy
【制作国】カナダ
【監督/脚本/衣装/編集】グザヴィエ・ドラン
【製作】ナンシー・グラン、グザヴィエ・ドラン
【撮影】アンドレ・ターピン
【美術】コロンブ・ラビ
【音楽】ノイア
【出演([]内は役名)】
- アンヌ・ドルヴァル[ダイアン・デュプレ(ダイ)]
- スザンヌ・クレマン[カイラ]
- アントワン=オリヴィエ・ピロン[スティーヴ・デュプレ]
【公開日(日本)】2015年4月25日
【上映時間】134分
【配給】ピクチャーズ・デプト
【映倫区分】PG12
【IMDB】8.1/10.0 (およそ37,000人の評価)
【あらすじ】
とある世界のカナダでは、2015年の連邦選挙で新政権が成立。2か月後、内閣はS18法案を可決する。公共医療政策の改正が目的である。中でも特に議論を呼んだのは、S-14法案だった。発達障がい児の親が、経済的困窮や、身体的、精神的な危機に陥った場合は、法的手続きを経ずに養育を放棄し、施設に入院させる権利を保障したスキャンダラスな法律である。
15歳の息子スティーヴを育てる、気の強いシングルマザーのダイアン。スティーブはADHD(多動性障害)のため情緒も不安定で、普段は知的で純朴だが、一度スイッチが入ると攻撃的な性格になってしまう。そんな息子との生活に右往左往していたダイアンだが、隣家に住む引きこもりがちな女性教師カイラと親しくなったことから、少しずつ日々に変化が訪れる。精神的ストレスから吃音に苦しみ休職中だったカイラも、スティーブの家庭教師を買って出ることで快方に向かっていくが……。【引用元:パンフレット、映画.com】
【感想(ネタバレもあるよ)】
☆3.4/5.0
障がいを持つ息子と母親の不安定な関わり、それから法案によって引き裂かれてしまう切ない現実を描く本作。
天才的な演出の才能が爆発!
音楽の使い方、画面の構成、光の加減、色彩、どれもこれも斬新で、これから彼は映画シーンを変えていくんだ。そんな可能性を感じました。
特に、1:1の正方形だった画面のアスペクト比がグググッと広がっていくシーンは映画館で観れて本当に良かったと心から思える演出でした!!!
思わず涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまいましたよ・・・本当に幸せな映画体験でした。
今回も女性がキレるシーンが清々しかったし、ブラボー!ドランさん最高です!ここまでなら星5!なんですけどね!!
まるで1枚のアルバム
秀逸な演出の中に、アスペクト比1:1の画面と、それを取り巻く音楽の存在があります。
主人公が幸せだった頃の事を思い出すかのように、かつて亡くなった父と行ったカルフォルニアへの家族旅行で作ったコンピレーションの曲たちがサントラとして劇中で流れます。
アルバムが売れなくなり、一曲単位でネットで曲が買えるようになってしまった今では感覚として分かりづらいかもしれませんが「アルバム」である良さというものの一番は、それぞれ別個であるはずの曲たちが数10曲連なり、その並びから一つの物語を創り出すところ。だとちびぞうは思っています。
アーティストの方々がそれを前提として作っているのかは知りませんが、一つのアルバム全体で一つの作品になるように創っている方は少なくないでしょう。
この映画は、そんなアルバムの流れから想像できる一つの物語のような、そんな作品になっているんです。映画でありアルバム、アルバムであり映画のような。
アスペクト比1:1という画面は、CDジャケットの比率も連想させ、登場人物たちに寄り添う事の出来るサイズ・・・というだけでなく、この映画のどの場面を切り取ってもCDジャケットになるような、そんなお洒落さ、物語性が隠されているのだと思います。
本当に、ハイセンス。この一言に尽きますね。
さてさて脚本は?
ここからちょっと厳しめ感想。
ドランさんは美的センスが素晴らしすぎて・・・脚本のマイナス点を芸術面でほとんど補ってしまうから怖いんですよ。
(逆に言えば脚本と芸術性のバランスが取れた時、ものすごい映画が出来上がるんじゃないかと信じています!!なので次の作品も必ず観ます!)
今回は私のリサーチ不足もあったんですが、オープニングで流れる「カナダで改正された法案(あらすじの冒頭に載せた文ですね)」というもの自体がフィクションだったと知って心底ガッカリしてしまいました。
障がい者にスポットを当てるならば実話をベースにした方が観た人にも考えてもらえる映画になる気がするんですよね。(啓発が目的の映画ではなさそうだからそこまで求める必要ないかもしれないけど)
とにかく、法案ネタを冒頭に持ってきていかにも物語のメイン!という感じなのにそこはあまり物語の芯に関係なかった感じもして。正直あの設定、なくても良かったかな。
それから主人公の母親。彼女があまりにも息子の障がいを理解してなさすぎて…ツライ。自傷他害の可能性を知ってて目を離しすぎだし、これまでずっとこの問題と向き合ってきた人にしては疑問に思える行動が多々あった。もっと本人のためを思って一生懸命愛そうと頑張る母親っているだろうし。
そもそもドランさんは不器用で不完全な(しかし力強くて美しい)母親像を描きたいのであって”障がい児とその母親”というスタイル自体にはあまり意味がないのかもしれないなーと思ってしまいますね。やっぱり、法案の設定はいらなかったのかも。
まとめ
今回は脚本の部分にあまり納得ができなかったので、演出と映像が素晴らしすぎて星5から始まったスコアも下がり気味。
それでもドラマとして面白いといえば面白い映画だとは思います!
多分、ちびぞうのドラン監督に対するハードルが相当上がってるのもあるんでしょうね。
でもいつか、そのハードルを軽々と越えてきてくれるって信じています!!