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アートの概念を揺さぶられる!映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』ネタバレ&感想

全ては仕組まれたことなのか、あるいはリアルなドキュメンタリーなのか…。

ちびぞうの、過去に観た映画もブログにまとめとこうシリーズ!ですね。

今作は、ストリートアート”グラフティ”で有名になったカリスマアーティスト、”バンクシー”初監督のドキュメンタリー!!

バンクシーというイギリスの覆面アーティストの作品はネットでニュースになることもしばしばあり、目にしたことがあって「なんてかっこいい作品を創る人なんだろう」と思っていたんですが…まさか映像の才能もあるとはね!!!DVDや画集も買ってしまったし、すっかりバンクシーのファンになってしまったちびぞうでした。

アップリンクさんによる公式サイトはこちら

ちなみになぜ覆面なのか?それはグラフィティのほとんどが持ち主の許可なく行われる犯罪行為(器物破損)だからですよ!!

【映画情報】

【原題】Exit Through the Gift Shop
【制作国】アメリカ・イギリス
【監督】バンクシー
【ナレーション】リス・エバンス
【音楽】ジェフ・バーロウ、ロニ・サイズ
【出演([]内は役名)】

  • ティエリー・グエッタ
  • スペース・インベーダー
  • シェパード・フェアリー
  • バンクシー

【公開日(日本)】2011年7月16日
【上映時間】90分
【配給】パルコ、アップリンク
【映倫区分】G
【IMDB】8.0/10.0  (およそ55,800人の評価)

【あらすじ】

ストリート・アートに関するドキュメンタリーを制作していた映像作家のティエリー・グエッタは、幸運にもバンクシーの取材に成功する。しかし、グエッタに映像の才能がないと気づいたバンクシーはカメラを奪い、グエッタを“ミスター・ブレインウォッシュ”というアーティストに仕立てあげ、カメラの前に立たせる。【引用元:映画.com

【感想】

☆3.6/5.0

おおまかなあらすじはこんな感じ

とあるビデオ撮影依存な男(ティエリー・グエッタ)がひょんなことからストリートアートに出会い、それを描く人たちを追い、制作過程を撮影する。
最初はただ撮るだけだった男もバンクシーとの出会いによって変わっていく。映像編集に手を出したり、果ては自分も”アーティストMBW(ミスターブレインウォッシュ)”となり、初めてのショーを成功させようと奮闘する…。

グラフィティと言えば

ちびぞうが高校時代に仲が良かった女の子がグラフィティをする男の子の話をよくしていたなぁ…と思い出しました。多分地元で、グラフィティをやってる若者が当時、いたんだと思います。それこそ15年位前、ネットも携帯も誰しが持っているという時代ではなかったけれど、どこからともなくやってきた”グラフィティ”というものは確かに人々を魅了しながら、海の向こうの日本にも広がってきていたんだなぁ…と思うと、「落書き」なんて言葉では表せない一つの文化なのかなと思ったりしますね(許可がなければ犯罪ですけども!!!!!!)

脱線しました。

この作品を観ていると、本物のアートとそうでないものの境目がボケてきて、「結局はお客に高い金積ませたモン勝ち」みたいな側面が見えてきます。
そして”あんたらが高い金出して買ったものは所詮この程度のものだよ”と皮肉ってるような…そんな意図も感じましたね。

最初はMBWがアーティスト達のドキュメンタリーを撮ろうとしていたのに、途中からバンクシーが監督してMBWを追うドキュメンタリーを作る逆転の流れも面白い!!バンクシーがMBWの編集した動画を見て「落ち着きのない頭のおかしいヤツが繋げただけの動画(セリフうろ覚え)」とズバッと切り捨ててたところで爆笑してしまいました(笑)

この非凡な男と平凡な男の対比も面白いですよね。

周囲の環境に影響されて、MBWが夢を見ていく過程も面白切ない。

夢を見ていく…と言っても収入的にはMBWの個展は大成功してしまうし、どこからが才能なのかってもう分からなくなりますね。

まとめ

いわゆる芸術の勉強なんて1ミリもしたことのないちびぞうには作品の真の価値とかは全くわからないけども、作中出てくるバンクシーの作品には心動かされたし、とても強い憧れを感じました。なんというか、技術だけなら誰でも身に着けられるけど、そこからもう一歩先んじるには「他人に出来ない発想」というのが必要なのだなと。しかもそれを誰より早くやってみる、という度胸や挑戦心も必要。

創作好きならきっと「アートとは一体なんぞや」と頭を悩ませながらも楽しめるし、良い刺激をもらえる映画ではないかなと思います!!

結論:カリスマは何やっても成功する。

 

 


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画像引用元:映画.com/IMDB

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粉ミルクで赤ちゃんが…映画『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』ネタバレ&感想

子どもたちを守るため、男は世界最大企業を敵にまわした――

インド映画好きのちびぞうの食指が伸びました!!!

何の前知識もなく、DVDにて鑑賞。ぶっちゃけ手に取るまではこの邦題エロくない…?と思っていました、汚れていたのはちびぞうの心でした。

しかし安心してレジへ持って行ってください、本作には「あるセールスマンの告発」という非常に真面目な副題がついていますからね。

何の話かよく分からなくなってきたところで本題へ。

この監督さん、『鉄くず拾いの物語』『ノーマンズランド』の人でした!!!実話ものが得意なんでしょうかね~『ノーマンズランド』は好きな作品なので、期待が高まります(*’ω’*)

公式サイトはこちら

【映画情報】

【原題】Tigers
【制作国】インド/フランス/イギリス
【監督】ダニス・タノビッチ
【脚本】ダニス・タノビッチ、アンディ・パターソン
【製作】プラシタ・チョーダリー、クシティジ・チョーダリー、グニート・モンガ、アヌラグ・カシャップ、アンディ・パターソン、キャット・ビラーズ、チェドミール・コラール、マルク・バシュット
【製作総指揮】アチン・ジャイン、カレン・テンコフ、ミヒャエル・ベバー、プラビーン・ハシュミ
【撮影】エロル・ズブツェビッチ
【衣装】ニハリカ・カーン
【編集】ブレールナー・サイガル
【音楽】プリータム
【出演([]内は役名)】

  • イムラン・ハシュミ[アヤン]
  • ギータンジャリ[ザイナブ]
  • ダニー・ヒューストン[アレックス]
  • カーリド・アブダッラー[ナディーム]
  • アディル・フセイン[ビラル]
  • サティーヤディーブ・ミシュラ[ファイズ]
  • マリアム・ダボ[マギー]
  • ハイノ・フェルヒ[ミヒャエル]
  • サム・リード[フランク]
  • ビノード・ナグパル[ムスタファ]
  • スプリヤ・パタク[アヤンの母]

【公開日(日本)】2017年3月4日
【上映時間】90分
【配給】ビターズ・エンド
【IMDB】7.2/10.0  (およそ300人の評価)

【あらすじ】

あるグローバル企業がパキスタンで粉ミルクを強引に販売したため、不衛生な水で溶かした粉ミルクを飲んだ乳幼児の死亡率が増加してしまう。自分の販売した粉ミルクが子どもたちの命を脅かしていることを知ったセールスマンのアヤンは、企業を訴えようとするが……。【引用元:映画.com

【感想】

☆3.8/5.0

いやー、面白かった!

1977年から実際に起きた「ネスレ・ボイコット」を基にした作品ですね。

主人公のアヤンを演じたイムラン・ハシュミさんが既視感ある顔をしていて…ブラピのような…エリック・バナのような…誰かに似てるんだよなぁ…

大体のあらすじ

元々、国産の製薬会社の営業をしていた主人公(アヤン)だったが、国産の薬はもう置いてもらえないところがほとんど。多国籍企業である大手のラスタ社が募集していた「大卒者のみ」という求人に応募、大卒ではなかったが奇跡的に受かり、ラスタ社の粉ミルクをセールスすることになる。

まず上司に大金を渡され、「医者にこれを配って、うちの粉ミルクを出してもらえるように頼め」としょっぱなからアウト―!なやり方で自社製品を売るように指示されるアヤン。

医者の好みや家族構成などを調べつくし、彼らの欲しがっているものを渡しては営業成績を伸ばす毎日だったが、ある日医者のファイズに「ラスタの粉ミルクを飲んでいる赤ちゃんが下痢を繰り返し脱水症状で死んでいる」という現実を知らされる。

その凄惨な状況にショックを受けたアヤンは退社を決め、粉ミルクの販売を中止するように企業を相手に闘い始める―――という感じ。

もうね。大企業の後ろには政府あり。こわいこわい。

構成が面白い!

この企業の悪事を暴くために、アヤンを主人公にしたドキュメンタリーを撮ろう、という体で行われる撮影風景とドラマ部分を交互に描くというモキュメンタリー風の構成になっています。

序盤に思いっきり”ネスレ社”という文字を出しておきながら「さすがに企業名はふせておこうか」という意見が出て劇中の社名は全て”ラスタ社”に統一される(笑)

いやいや、後から伏せる意味(笑)

この、過去と現在、そして撮影風景とドラマ部分を交互に挿入するやり方は映画としても飽きることなく観れて面白いやり方だと思いました。

悲惨な写真や動画も出るので注意

劇中に登場する、弱った乳児の写真や動画はおそらく当時の実際の映像を使用していると思われます。脱水症状でやせ細ってしまい、骨と皮だけのようになってしまった赤ちゃん。私たちの知っている乳幼児の姿(ぷくぷくもちもちとしたコロコロのまんまる赤ちゃんのイメージ)とはかけ離れています。観ていて非常に胸が痛みますので、耐性がない方はやめておいた方がいいかもしれません。

この粉ミルク問題、粉ミルク自体に危険性があるということではなく、

貧困層の家庭に対し医師が安全性をしっかりと配慮したうえで処方した粉ミルクではなかった、ということ。金の力で買収され、ラスタ社の言うがままに粉ミルクを処方していた。ここに問題があったわけです。

医師が粉ミルクをすすめ、母乳が出るのにも関わらず母乳を飲ませることをやめてしまう母親が出たり、貧困層の家庭では汚染された水で粉ミルクを薄めに薄め飲ませることで栄養が欠乏してしまう、そして汚染された水による病気を併発する…そして乳幼児が死んでいく…という事なんです。

何が一番恐ろしいかと言うと

物語のオチというオチはなかったですね。

ラスタ側がアヤンの訴えは脅迫目的であると言ってきて、撮影していた番組を流すかどうかという部分で悩まさせられる。

どうなるの、これ!?というところで物語は終わります。

そして、主人公のモデルとなった人は故郷で暮らすことは出来ず、外国に家族を移住させ暮らすようになった…というテロップが流れます。

企業の力があまりにも大きく、本国パキスタンでは平和に暮らすことも出来なくなってしまったんですね。結局、撮影していた映像が流されたのかどうかは明かされません。

なぜなのか?

ちびぞうは、映画にして訴えても何も変わらない、という事が言いたかったのかな、と思いました。ネスレボイコットを調べてみると、終息宣言されていない、とwikiには書かれていました。つまり、1977年から始まったこの問題も、いまだに解決されていない、ということなんです。

その事実が、何よりも恐ろしい。大企業、おそるべしです。

まとめ

エンディングは『ノーマンズランド』と似ていて、ただ真実を突きつけて終わる、という感じでした。

きっとこの監督はこの作品で少しでも問題を周知してもらおうと思ったのかな。映画としての面白さで楽しませてくれるだけでなく、こんな問題が世界にはあるよ!と教えてくれている。

私たちには映画を観て、伝聞して、とにかく「知る人」を増やすこと。それしか出来ないですが…

少しでも興味のある方には一度観てもらいたい一本です。
まとまってないけど終わり(笑)

 

 


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映画作りを禁止された監督の『人生タクシー』ネタバレ&感想

”上映可能かどうかはイスラム文化指導賞省の判断による
願い虚しく本作に上映許可は出なかった
本作がここにあるのは――支援者のおかげである”

配給会社さま、この映画を日本に届けてくれてありがとう。

ちびぞうが敬愛する映画監督の中に小津安二郎監督がいて、その小津監督の影響を受けたイランのアッバス・キアロスタミ監督がいて、彼の作品も大好きで。

そして2016年に亡くなってしまったキアロスタミ監督の愛弟子であったという、今作の監督ジャファール・パナヒさん。彼の存在は今作で初めて知りましたが、なんというか・・・胸が苦しくなる作品でした。

というのも、規制が厳しいイランで反政府的な映画を撮ったとして捕まった事があるパナヒ監督は、以降20年間、映画を撮る事を国から禁じられてしまっているのです。

保釈には映画人からの訴えも多くあったようで、こんな記事もありました。

今作は、映画作りを禁止された監督がタクシー運転手に扮し、お客さんである街中の人々を隠しカメラで撮影する・・・という体の(おそらく)モキュメンタリー映画となっています。

【映画情報】

【原題】Taxi
【制作国】イラン
【監督/脚本】ジャファール・パナヒ
【出演([]内は役名)】

  • ジャファール・パナヒ[タクシー運転手]

【公開日(日本)】2017年4月15日
【上映時間】82分
【配給】シンカ
【映倫区分】G
【IMDB】7.4/10.0  (およそ10,300人の評価)

【あらすじ】

ダッシュボードに置かれたカメラには、強盗と教師、海賊版レンタルビデオ業者、交通事故にあった夫婦、映画監督志望の学生、政府から停職処分を受けた弁護士など、個性豊かな乗客たちの悲喜こもごもが映し出され、彼らの人生を通してイラン社会の核心へ迫っていく。【引用元:映画.com

【感想】

☆3.5/5.0

正直、これを映画として普通に鑑賞するというのは難しい・・・と思います。

ちびぞうはイランの現状も監督の置かれた状況も何も知らずに観たので、この映画がどれほどの危険を冒して撮られた作品なのかという事を本当の意味で理解していないと思うから。


それでも感想は書かねばならぬ!(シヴァガミ風)

実際に勝手にお客さんを撮影しているのか、お客さんという体の役者と会話をしているのかちょっと分からない部分もあるんですが(多分完成度的に後者、つまりはモキュメンタリー)、イランのテヘランで暮らす人々の生活・価値観・死生観など垣間見ることができる貴重な作品だと思います。

最初に乗ってきた男が「タイヤ泥棒より軽い暴力沙汰の事件で死刑になった人」の話をしていて、タイヤ泥棒も絞首刑にすべきだ、と言ったのに対し乗り合わせた女性教師が「盗人にも事情があるかもしれない、犯罪は(周囲の環境も影響して)作られる、問題の根源を知るのが必要」と反論するシーンでも、イスラム法の怖さがチラ見せされていました。

”いつまでも問題が解決しないとしたら、法の適用を間違っている”だそうですよ。

 

映画業界への縛りの厳しさは、海賊版DVDを売る店員の「こうでもしないと外国映画を観られないんです・・・」という台詞や、学校で映画を撮る課題を与えられた監督の姪っ子が語る撮影のルール「女性はスカーフを着用し、男女の触れ合いは無し。善人の男性にはネクタイ(白人社会の象徴)を付けず、イラン人の名前ではなく聖人の名前を使うこと、俗悪なリアリズムに触れない事」にも現れていて切なかった。

監督が「僕の友人はイラン名でネクタイをしているし、善人か悪人かどっちなんだ?」と聞くと姪っ子が「これは映画の中のルールだもの」と言い、「彼を映画に出演させるにはどうしたらいい?」という問いに「(彼の)全てを変える!」と答えていたやりとりが非常に印象的。

(日本は本当に、色んな国の色んな作品を自分で選んで観れる、作品として撮影し発表も出来る、素晴らしい国だ)

この監督の姪っ子という存在が、巧みでしたね。
彼女は映画の課題のためにテヘランの街並みをビデオカメラで撮影しているんですが、その時偶然、結婚式を終えて車に乗り込む新郎が落としたお金をゴミ拾いの男の子がネコババする瞬間をカメラに収める。そしてその男の子を呼び寄せて咎めるんです。お金を返すところを撮影したいと、返してきてと説得する女の子とゴミ拾いの男の子の

「人の為に自分の欲を捨てるところが見たいの」
「ヒーローになるよりお父さんにお金を渡したい」

というやり取りも切なくて、現実に目を向けず自分の信じる正論や理屈ばかりに目を向けている女の子が小さな政府を表しているようでした。

最後に乗車したバラを持った女性とのやりとりは「ようやく釈放されても、外の世界は巨大な独房よ」という台詞が印象的。しかしここの場面はちょっとさすがにイラン情勢の背景を知っておかないと難しい、です。

そして、ダッシュボードに一輪のバラを残して車から去っていく監督と姪っ子の後姿を映すラストシーン。ここの長回しはアッバス・キアロスタミ監督『オリーブの林をぬけて』のラストを思い出す演出でグッと来ました。

この一輪のバラは映画にささげられたものだろう、と解釈している方がいましたが、ちびぞうは当時ガンを患っていたキアロスタミ監督に捧げたバラでもあるのかなぁと感じましたね。

ラストの長回しの中でこのタクシーも強盗に合うというオチも良かった。
冒頭に書いた一文がクレジットの前に出て来て映画が終わるんですが、本当に臓腑にドスンとくる重みのある文でした。

 

この監督が本当に好きな物を好きなように撮った映画が、いつか観れたらいいなぁ。

余談。

そういえば、ビデオ屋の店員が海賊版DVDを見せながら「貴重なクロサワ映画もありますよ」と言っていてビックリしたんですけど、やっぱり黒澤監督は凄いんだなぁ・・・世界に名を轟かせている。(しかしそこは小津監督じゃないのねという静かなツッコミ)

 

 


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