ただ、謝罪だけが欲しかった。
ポスターをひと目見た時から気になっていた今作!
ロングライドさん配給、監督はレバノン出身のジアド・ドゥエイリ。タラちゃん監督の『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』、『ジャッキー・ブラウン』などのカメラアシスタントもしていたようです。
第90回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品です。ちなみにその年の同賞には、ミヒャエル・ハネケ監督の『ハッピーエンド』や
日本映画の『湯を沸かすほどの熱い愛』が出品されていましたね!
そして主演の一人、カメル・エル・バシャは第74回ベネチア国際映画祭 最優秀男優賞を受賞しています!
しかしこのレバノンという国は一体?ちびぞうは”レバノン”という国を良く知りません。FOXのミュージカルドラマgleeでブリトニーというキャラクターが作ったTシャツの文字を”レズビアン”と書こうとして”レバノン人”と間違えてしまったエピソードで知ってる程度しか知りません(笑)
なので少し調べてみました。
レバノンとはレバノン共和国のこと、中東にあり南にイスラエル、北から東にかけてはシリアと隣接しているようです。
宗教もイスラム教とキリスト教が同居しているようで・・・
こう聞いただけでとてもややこしそうな予感!!!
パンフレットはこんな感じ。
全26P、サイズはB5くらい。税抜き667円。監督と憲法学者の木村草太さんの対談や、映画の内容を紐解くための歴史的背景に関する記事、キーワード解説、レバノン現代史年表なども載っています。
ロングライドさんによる公式サイトはこちら!
【映画情報】
【原題】قضية رقم ٢٣(洋題:The Insult)
【制作国】レバノン、フランス
【監督】ジアド・ドゥエイリ
【脚本】ジアド・ドゥエイリ、ジョエル・トゥーマ
【撮影】トマソ・フィオッリ
【編集】ドミニク・マルコンブ
【音楽】エリック・ヌブー
【出演([]内は役名)】
- アデル・カラム[トニー・ハンナ]
- カメル・エル・バシャ[ヤーセル・サラーメ]
- リタ・ハーエク[シリーン・ハンナ]
- クリスティーン・シュウェイリー[マナール・サラーメ]
- カミール・サラーメ[ワジュディー・ワハビー弁護士]
- ディアマンド・アブ・アッブード[ナディーン・ワハビー弁護士]
【公開日(日本)】2018年8月31日
【上映時間】113分
【配給】ロングライド
【映倫区分】G
【IMDB】7.7/10.0 (およそ11,013人の評価)
【あらすじ】
自宅アパートのバルコニーの溝が違法建築であると指摘されたトニーは修繕しようかという工事業者の現場監督であるヤーセルの申し出を断る。しかしヤーセルはバルコニーを勝手に修繕しようとし、トニーはそれを止めようと妨害、するとヤーセルはトニーに対して「クソ野郎」と暴言を吐く。
トニーは修繕会社に暴言について謝罪を求めるよう要求し、会社に指示されたヤーセルは謝罪に向かう。しかしそこでも二人の人種や政治的思想、宗教観念などが絡み、今度はトニーが吐いた暴言に対しヤーセルがトニーを殴る事態に。些細なことがきっかけで起きた諍いは、法廷劇へと発展していく。
【感想(ネタバレするよ!!)】
☆4.5/5.0
とっても好きですこの映画!!!!
2018年に観た映画の中でもTOP10には食い込むレベルで好きです!!!!!
正直、主人公二人の人生の過酷さや、人種問題、政治的問題、宗教観念などはちびぞうにとっては全くの未知の世界であり、共感できるような部分は何一つなく、登場人物たちの抱える苦悩を”そういう風に生きてる人もいるんだ”という感覚で受け止めることしか出来ません。
しかし、色んな難しい問題をそぎ落として「二人の男」という部分だけをクローズアップしても観ることの出来る本作は、「本来のテーマを本当の意味で理解することのできない観客」に対しても遠い国で起きている諍いが身近に感じられるように出来ているんです。ややこしい問題を理解してなくても、シンプルなプロットになじめる、そんなイメージ。
和解への伏線が好き
些細な諍いが裁判沙汰へと発展し、メディアや市民を巻き込んでの大騒動へと発展していくんですが、その裏側で主人公二人が和解していくまでの過程がさりげなく伏線としても描かれています。
工事の現場監督をするヤーセルと自動車の整備士?をするトニー。
二人は法廷でお互いの人生について知っていく過程で互いの苦しみについても理解していく。同じ傷を負ったある種の仲間意識のようなものも芽生えたかもしれません。そして、車のエンジンがかからず困っているヤーセルをトニーが手助けして車を直してやるシーンなどでも、少しずつ二人の心の距離が縮まっていくのが分かります。
決めてとなったのはトニーが弁護士にも話していなかった自分の過去を法廷で明らかにされたこと。
それを知ったヤーセルはトニーに会いに行き(かつてトニーが自分にしたように)トニーのタブーについて悪態をつき、そしてぶちぎれた彼に思い切り殴られる。そこでヤーセルは今までの事を全て謝罪する。
お互いに、お互いの痛みを抉り、罵倒し、これでお互い様、痛み分けだ。という感じですね。
こういう、二人の関係性が分かりやすく変化していく場面以外にも、観客だけに分かる伏線が用意されています。
かなり序盤の方でトニーが「中国製の製品」についてダメ出しをしているシーンがあるんですが、忘れたころにヤーセルも中国製品について言及するシーンがあるんです。その2つのシーンはバラバラで、お互いはそのことを知りませんが、観客だけが「もしかしてこの二人、職人として気が合うのでは」とうっすら思うことができます。
宗教や政治的思想やらを取っ払った時に残るのは、一人の男であること、職人であること、そして人間であること。その根本的な部分で二人は共鳴することが出来た。だからこそきっとお互いの痛みを受け入れるという選択肢も取れたのでしょう。
この演出がすごくさりげなくて、ちびぞうは大好きなんです。
ひとつだけ気になる
二人の弁護を担当した弁護士は親子だったんですが、彼らに対しても知識があれば楽しめたかもしれません。が、ちょっとあの設定は蛇足なように感じてしまったかな。親子の諍いを持って来られても・・・という感じがしてしまったんですよね。内戦を知らない世代である若い弁護士が相手だからということで独特な話運びになっていたのかもしれませんが、それなら別にただ若い弁護士にすればいいし親子である必要性はなかったような気もする。
そもそも親子で裁判で戦うって可能なんですかね。
ちょっとこの部分だけがノイズのように気になってしまった点でした。
まとめ
いがみ合うような関係性だったとしても、別の角度から触れ合えば分かり合える可能性が残っている、それこそがこの邦題にある「希望」なのかなと感じました。
正直泣けたし、すごく心に残った。
ある程度の事前知識はあった方がより物語について入り込めるとは思いますが、意外に何も知らなくても映画的楽しみを見出せる傑作だと思います。
おすすめ。
最近、中東の映画を観る機会が多くて、そこらへんの歴史や情勢などにも興味がうっすらと出てきました。
数時間、椅子に座って画面を見つめるだけで世界を知れるきっかけをもらえる。映画ってほんとすごい。