妙なもんじゃ…… 自分が育てた子供より-
いわば他人のあんたのほうが よっぽどわしらにようしてくれた
私の好きな映画監督の一人にアッバス・キアロスタミというイランの監督がいまして(2016年の夏に逝去された)、そのキアロスタミ監督が愛していた日本人監督がいました。
それが、この『東京物語』を撮った小津安二郎監督です。日本ではあまり有名ではないですが、海外では非常に評価が高く、主に映画人にファンが多いようです。
公開が1953年と古いので当然ながらDVDで鑑賞しました。
【映画情報】
【原題】東京物語
【制作国】日本
【監督】小津安二郎
【脚本】小津安二郎/野田高梧
【音楽】斎藤高順
【出演】笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、山村聡
【公開日(日本)】1953年11月3日
【上映時間】136分
【配給】松竹
【IMDB】8.3/10.0
【あらすじ】
周吉、とみの老夫婦は住みなれた尾道から二十年振りに東京にやって来た。途中大阪では三男の敬三に会えたし、東京では長男幸一の一家も長女志げの夫婦も歓待してくれて、熱海へ迄やって貰いながら、何か親身な温かさが欠けている事がやっぱりものたりなかった。それと云うのも、医学博士の肩書まである幸一も志げの美容院も、思っていた程楽でなく、それぞれの生活を守ることで精一杯にならざるを得なかったからである。周吉は同郷の老友との再会に僅かに慰められ、とみは戦死した次男昌二の未亡人紀子の昔変らざる心遣いが何よりも嬉しかった。ハハキトク--尾道に居る末娘京子からの電報が東京のみんなを驚かしたのは、老夫婦が帰国してまもなくの事だった― 【引用元:映画.com】
【感想】
☆4.0
初めての小津映画。衝撃を受けました。好きな監督が影響を受けた監督という贔屓目で観てしまった可能性も少なからずあるかもしれませんが(笑)
まず、私は洋画派で邦画はあまり観ませんし。しかも古いモノクロ映画は特に苦手な部類なんです。なので観る前はかなり不安が大きかった。実際流し始めてすぐに「あぁこれ苦手そう」と思ったのですが…それは結局、杞憂に終わりました!どのシーンがきっかけか明確な線引きはなく、観終わった時には小津監督のファンになっていたんです(笑)
物語は、ある老夫婦が遠く離れた東京へと子どもたちを訪ねていくところから始まります。久々に会ったというのに、本人たち(親)が目の前からいなくなると現れる不躾とも思える子どもたちの態度に観ながら胸を痛め、それでも彼らを許す父の懐と愛の深さに切なくなります。でも、この映画に悪人は存在しません。みんな、人間なだけ。
これが紛れもなく一つの家族の形なのだと思うと、胸が痛くなります。
戦争で亡くなった次男の嫁である紀子と、父のやりとりも素晴らしかったです。大切な人を失くしたからこそ他人に優しく出来る紀子。しかし、紀子の時は夫が死んだところで止まってしまっています。
最後のシーンで父は時計を渡し紀子に「先へ進め」と言う。ここから紀子の時間は再び動き出すのですが、ラストショットの父の姿はそれと引き換えにまるで時が止まったかのように切なく…この対比が素晴らしかったですね。
小津監督の映画は非常に独特なカメラワークが印象的で、パッと見退屈と感じさせることも多いと思います。
主演の笠智衆さんの演技も最初は「この棒読みはヤバすぎる」と思うのですが、不思議や不思議、その画面の静けさや人の手の加わらない朴訥な演技も、だんだん癖になってきてしまうんです…(笑)
もっと、親孝行せねば。そんな風に思わせてくれる静かな名作ですね。
キアロスタミ監督が影響を受けたという事で小津監督に興味を持ちました。しかし実はこの『東京物語』も、1937年に日本で公開されたレオ・マッケリー監督の『明日は来らず』という作品が元ネタ?になっているようです…。この、名作が名作を繋げていく連鎖というか、時代や国を超えて伝わっていく感じがとても素敵ですね。
機会があれば、『明日は来らず』も観てみたいです^^