「お前らは犯罪の容疑者だ。銃はどこにあるのか正直に言え。撃ったのは誰だ?」
ちびぞうがまずこの映画に惹かれたのは一点。ウィル・ポールター君の顔がCMで映ったからです(笑)
ウィル・ポールター君とは!!!
「もし”タンタンの冒険”を実写映画化するなら間違いなくタンタン役は彼!」とちびぞうが一人孤独に推している役者さんであります。
タンタン↓
下の画像は『なんちゃって家族』の時のポールター君。
『メイズ・ランナー』でもギャリー役で活躍、近年ではデカプリオがアカデミーを獲った『レヴェナント』にも出演して、着々とキャリアを積んでいる彼。多分ちびぞうが初めて見たのは『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』だと思うんですが、さすがにそこの記憶はないな…調べてみたら子役出身だということに驚きました。
彼が挑む、黒人別の映画…。しかも、ものごっつ悪そうな役じゃないですか!こーれは観たい!ちびぞうは好きな役者さんが「嫌な役」をしているのが結構好きなのです(*’ω’*)
映画館に出かける数日前、たまたまこのデトロイトでの暴動、モーテルでの事件についてのドキュメンタリー番組がやっていたので(しっかり観たわけではないけど)、「実話ベースなのか!!」と更に映画に対する期待値アゲアゲ~になりましたね!
パンフはこんな感じ!
白人警官に抗議する黒人たち、そして赤の箔押しで大きくデトロイトの文字。カッコいいです。縦長A4ぽい大きさ、34Pで税抜き677円は普通。樋口毅宏さん、町山智浩さん、越智道雄さん、吉岡正晴さん、藤永康政さんなどが寄稿していました。
【映画情報】
【原題】Detroit
【制作国】アメリカ
【監督】キャスリン・ビグロー
【脚本】マーク・ボール
【製作】キャスリン・ビグロー、マーク・ボール、ミーガン・エリソン
【撮影監督】バリー・アクロイド
【美術】ジェレミー・ヒンドル
【編集】ウィリアム・ゴールデンバーグ
【衣装】フランシン・ジェイミソン=タンチャック
【音楽】ジェームズ・ニュートン・ハワード
【出演([]内は役名)】
- ジョン・ボイエガ[ディスミュークス]
- ウィル・ポールター[クラウス]
- オースティン・エベール[ロバーツ准尉]
- ジャック・レイナ―[デメンズ]
- ジョン・クラシンスキー[アウアーバッハ弁護士]
- ベン・オトゥール[フリン]
- アンソニー・マッキー[グリーン]
- ネイサン・デイヴィス・ジュニア[オーブリー]
- ジェイソン・ミッチェル[カール]
- ペイトン・アレックス・スミス[リー]
- マルコム・デヴィッド・ケリー[マイケル]
- アルジー・スミス[ラリー]
- ジェイコブ・ラティモア[フレッド]
- ハンナ・マリー[ジュリー]
- ケイトリン・デヴァ―[カレン]
【公開日(日本)】2018年1月26日
【上映時間】142分
【配給】ロングライド
【映倫区分】G
【IMDB】7.4/10.0 (およそ24600人の評価)
【あらすじ】
67年、夏のミシガン州デトロイト。権力や社会に対する黒人たちの不満が噴出し、暴動が発生。3日目の夜、若い黒人客たちでにぎわうアルジェ・モーテルの一室から銃声が響く。デトロイト市警やミシガン州警察、ミシガン陸軍州兵、地元の警備隊たちが、ピストルの捜索、押収のためモーテルに押しかけ、数人の白人警官が捜査手順を無視し、宿泊客たちを脅迫。誰彼構わずに自白を強要する不当な強制尋問を展開していく。【引用元:映画.com】
【感想(ネタバレしているよ!)】
☆3.5/5.0
まず観終わって最初にちびぞうが思ったのは、
「地獄を観てきてしまった…」
という感想。
重苦しく、胸を締め付けられるような、恫喝と、嫌がらせと、暴力のシークエンスがかなり長く続く。しかし全体でみると142分もあるのに、そんな長さは感じられない。不思議。
この監督の作品は『K-19』くらいしか観てないちびぞうですが、「このひとめっちゃうまい!」と思いましたね。はい。その場にいるような臨場感はノーラン監督の『ダンケルク』のようだし、ただの差別映画ではない深みも感じられた気がしました。
そこで生きている例えば白人警官の「自分なりの正義」を信じる狂気。そこに、客観視すると確実に悪はあるんだけど、でも一言で悪と言い切れない恐ろしさ。
最近、スタンフォード監獄実験を映画化した『プリズン・エクスペリメント』を観ましたが「権力や自分のいる立ち位置が他人の人権を殺していく」過程が、今作ではよりリアルに、痛ましく、真実味を以て迫ってくる、そんな感じがしました(事実だから真実味があるというより、役者の演技や監督の演出がもたらすリアリズムのせいだと思う)
ただのアルバイトでも、立場や権力を与えられればあそこまで人を痛めつけるようになってしまうのに、そこに「長く続く差別の意識」だったり「歴史」だったりが絡めば、どれほど深く恐ろしいことになるか…。まさに地獄、だったなぁ。
おおまかなストーリー
1967年、デトロイト暴動の最中に発生したアルジェ・モーテル事件がもとになっています。
白人警官が不当に黒人犯罪者を虐待したり、殺したりする世の中で、黒人の不満が爆発。暴動が起き、州兵や軍なども出動する中、モーテルでおもちゃの銃を発砲した10代の黒人がいた。
狙撃犯を探せ!と州兵とデトロイト市警がモーテルへ急行。そこへ、近くの食料品店で警備員をしていた黒人のディスミュークスも駆けつける。白人警官たちはモーテルの黒人たちを壁に向かって並べ、「誰が狙撃犯なんだ、銃はどこにある、吐け」と脅し、暴力をふるい、死のゲーム(一人ずつ別室へ連れて行き、床などに発砲「黙っていなければ次は本当に殺す」と脅す。廊下に並んでいた人たちは実際に殺されてしまったと思い込む。そして、「ああなりたくなければ本当のことを言え」と脅すというもの)を行う。
しかし、警官の一人がその死のゲームのことを把握しておらず、本当に一人撃ち殺してしまう。そして「まずいことになった、引き揚げろ」と警官は全員を逃がす。この、モーテルで10代の黒人が3人殺害されたという事件で、その場を取り仕切っていたクラウス(ウィル・ポールター)含む三名の警官が裁判にかけられるが、結果は無罪。(陪審員は全員白人であった)
そして、その事件に巻き込まれた”ザ・ドラマスティックス”のボーカル・ラリーは、俗世音楽を白人のために歌うのを拒絶し、教会で聖歌を歌うようになる…。
役者陣の演技・キャスティングのすばらしさ
さっすが新進気鋭の三枚目実力派俳優、ウィル・ポールター君!!!
ゲスな差別主義者の白人警官を演じています。
彼の顔が童顔で「ちょっと若く見えすぎてしまうんじゃない?」というのが観てる間気になっていたんですが、実はそれは狙いだったよう。差別主義者の幼稚さというものを彼の童顔が表していたようで。なるほど!!!
対する黒人側の被害者の一人、ラリー役のアルジー・スミスもとってもいい演技をしています。彼の歌声は本当に心に染みます。劇中では彼のモデルになったラリー本人が作った曲を二人でデュエットしているようですね。最後にラリーが教会で歌うシーンは本当に胸に来ます。
そして、黒人と白人の間のようなポジションにいた、黒人警備員のディスミュークス(ジョン・ボイエガ)。警官側のメインキャラは複数の人物を一人に落とし込めていたり、名前も変えられていたりするんですが、彼の名前だけは実名らしいところも面白い。
彼は制服を着て、白人に上手く近付く術も持っており、酷い扱いを受けそうになる黒人を何度も白人から救っていました。彼はちょうどその差別社会の間にいるグレーな立場というか、95%が白人だったという警官たちの中で警備員としての”制服”を着ていた彼だけが、差別を受けずに済んでいた、という状況が物語っている”制服”の表す権力の力のようなものが感じられますよね。前述した、スタンフォード監獄実験でも制服は過大な力を与えていましたもんね。
このディスミュークスという人物は、世の中を変えていく希望にも思え、この地獄のような映画の中で唯一のオアシスになり得る存在でした。彼を演じたジョン・ボイエガの演技はまさに「ポスト・デンゼルワシントン」といった感じ。かなり話が進むまで「スターウォーズ新章のフィン」だという事に気付かないくらい、演じ分けがしっかりされていたと思います。
まとめ
この映画がもたらす社会への影響、だったり、差別に対するどうのこうのなんて難しいことはちびぞうにはさっぱり分かりません。真実はどうであったか、と判断するのは鑑賞者それぞれの心が決めればいいことですし。
だけど、こういった事実があったということを知るきっかけになったり、黒人差別というものがどんなものだったのか、考えたり興味を持ったりすることに意義がある、と思います。それだけでもすごく価値のある映画だったと思う。
他にも黒人の青年が白人警官に射殺された事件(これはなんと2009年の事件。きっと今でもこういうことは普通に行われているんだと思う)を扱った『フルートベール駅で』だったりと、実際に起きている黒人への虐待や殺人事件を取り扱った映画はたくさんあります。最近だと『それでも夜は明ける』という黒人奴隷時代の映画もありましたね。
探せば多分もっとたくさんある。だけどあんまり多くの人に観られてはいない。
ぜひ、一つの事象を知るきっかけとして、とても実録という以上に映画としての面白さもあるので、劇場に観に行って欲しいな。辛く重い気持ちになるけど、価値があるから。そう思う作品でありました。