共感度ゼロの最低な男と女が辿り着く“究極の愛”とは
阿部サダヲ×蒼井優!そして原作は『ユリゴコロ』と同じ沼田まほかるさん!
監督は『凶悪』や『孤狼の血』の白石和彌監督。ちびぞうは今回、初白石作品となりました。
今回は沼田さんファンの友人が劇場で観た時の反応がいまいちっぽかったので劇場スルー。
原作も未読のままレンタルで鑑賞しました。
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【映画情報】
【制作国】日本
【監督】白石和彌
【脚本】浅野妙子
【原作】沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち(幻冬舎)」
【エグゼクティブプロデューサー】藤本款
【プロデューサー】深瀬和美、山本晃久、西口典子
【企画】西口典子
【撮影】灰原隆裕
【照明】舟橋正生
【録音】浦田和治
【美術】今村力
【衣装】高橋さやか
【ヘアメイク】有路涼子
【編集】加藤ひとみ
【助監督】茂木克仁
【制作担当】宮森隆介
【出演([]内は役名)】
- 蒼井優[北原十和子]
- 阿部サダヲ[佐野陣冶]
- 松坂桃李[水島真]
- 村川絵梨[國枝カヨ]
- 赤堀雅秋[酒田]
- 赤澤ムック[野々山美鈴]
- 中嶋しゅう[國枝]
- 竹野内豊[黒崎俊一]
【公開日(日本)】2017年10月28日
【上映時間】123分
【配給】クロックワークス
【映倫区分】R15+
【IMDB】6.5/10.0 (およそ210人の評価)
【あらすじ】
下品で貧相、金も地位もない15歳上の男・陣治と暮らす十和子は、8年前に別れた黒崎のことを忘れられずにいた。陣治に激しい嫌悪の念を抱きながらも、陣治の稼ぎのみで働きもせずに毎日を送っていた十和子は、黒崎に似た面影を持つ妻子ある水島と関係を持つ。ある日、十和子は家に訪ねてきた刑事から、黒崎が行方不明であることを告げられる。「十和子が幸せならそれでいい」と、日に何度も十和子に電話をかけ、さらには彼女を尾行するなど、異様なまでの執着を見せる陣治。黒崎の失踪に陣治が関係しているのではないかとの疑いを持った十和子は、その危険が水島にまでおよぶのではとないかと戦慄する。【引用元:映画.com】
【感想(ネタバレするよ)】
☆3.5/5.0
沼田まほかるさんが70歳だからか、この方の原作の映画は少し時代背景が古いですね。昭和感のある映画でした。
ちびぞうはラストはあまり泣けませんでしたが、愛は感じました。
阿部サダヲの愛がとにかくすごい。無償の愛。恋愛という域を超えた、親子の愛のような・・・マザーテレサのような愛なんですよね。
原作の沼田まほかるさんが寺出身で僧侶をしていたということを考えると、この神のような愛の表現にもなんとなく納得。
人の為に自分を犠牲に出来るというのは、究極ですよね。
主要の登場人物が全員クズ!!!!
- 主人公の十和子は陣冶の稼ぎでぐうたら生活しているし悪質クレーマーだし引っかかる男はどれもダメンズという残念な女・・・
- そのそばで十和子を愛する陣冶は不衛生で身なりやご飯の食べ方が汚く、生活力もあまりなく彼女に何度も電話してくる心配性(が過ぎてもはやストーカーレベル)で冴えないデリカシーのない(さらに言えば多分EDで男性としての機能も???)男
- 十和子が8年も忘れられない元カレの黒崎は金のために別の男に十和子を抱かせたり、突然彼女を捨てて別の女と結婚しようとしたり、それに抗議したらボッコボコに暴力をふるってくる男
- 十和子が新たに出会った時計店勤務の水島はいつも大きなことをペラペラと語る口先だけの人間で簡単に手を出してくる上に既婚だったという男。
- 黒崎が結婚した妻の叔父に当たる國枝という老人は黒崎が金に苦労していたのを利用して若い女を都合させる
こんな感じで出てくる人出てくる人大体がしょうもない人間なんですけども、ちびぞうが一番気に入らなかったのは主人公の十和子でした・・・。
アホすぎてアホすぎて・・・どうして一度失敗したら学ばないんだろうと・・・どうして何度も同じような男に引っかかるのかと・・・
それにあれだけ愛されてるんだから、陣冶の不衛生なところとかファッションとか身なりに関して、食べ方が汚いのとかも全部十和子が強く言えば直してくれるんじゃないですかね。
だってあれだけ愛されてるんだから。愛されてるのも知ってたんだから。
愛されてるのも知っていたし多分十和子にとっても陣冶の存在は大きかったんだろうなって映画を最後まで観ると分かります。
だからこそ、彼女の終盤までの陣冶に対する態度にイライラしてしまうという。
陣冶は十和子に愛されていた?
なんだかんだ言って十和子は、あの汚くて不器用な陣冶を選んで、そばにいたんだと思います。上で散々「直させればいいじゃん」と書きつつ、わざと十和子は陣冶をあのままにしていたんだとも思うんです。
周りにいるクズ男たちとは似ても似つかないような不衛生感、だらしなさ、生活力のなさ、そして体を求めてこない男性としても機能してなさそうな点。全てが今までの男と正反対で、だからこそ「優しい」と分かる。だからこそ「愛されてる」と分かる。
自分がどれだけ厳しく彼に接しても、だらしない姿を見せて甘えても、彼はそれでもいいと自分を受け入れる。
黒崎と接する時の彼女は猫撫で声で、いかにも「女らしく」取り繕っている感じがした。しかし、素の彼女は全然女らしくもなければ優しさもないし、小さなことで店員にケチをつけたりする心の狭い女だったりする。
陣冶はありのままの十和子を愛したように、十和子もありのままの陣冶だからこそ選んだのだと思う。そこにはちゃんと、いびつな形でも愛があったんだと思う。
あ・・・泣けますね(今きた!涙が!)
陣冶の自己犠牲
このお話の大きなネタバレとして、陣冶の自己犠牲がなんだったのか、という点があります。
序盤から中盤にかけて、陣冶の十和子に対す津異常な愛が彼をストーカーやそれ以上の犯罪的な行為に走らせていた、という風に観客をミスリードしつつ、本当は十和子の犯した罪のため奔走していた・・・というラストでビックリ!!な仕掛けになっています。
1つ目は、元カレの黒崎の失踪。その真実は、結婚するからと別れを告げられボコボコに殴られた十和子が黒崎を殺してしまったということ。十和子は心神喪失状態でありながら陣冶に電話し、異常を察した陣冶がかけつけ、死体の処理をしてくれます。そして死んだように眠っていた十和子が目を覚ますと、彼女は事件の事を忘れてしまっていた・・・。だから陣冶は彼女の罪をかぶり自分がそれを行った・・・という事にしたのです(まだ黒崎の事件は公になっていませんが、公になったとしたら自分が犯人だと自白するつもりだったのでしょう)
2つ目は、水島の件。十和子は再び男に裏切られ、水島をナイフで襲ってしまいます。しかしそこにも陣冶が駆けつけ「俺がやったと言え!」と言って水島を逃がします。この件によって十和子は過去の事件も思い出し、陣冶が自分の為に何をしてくれたのかを知ることになります。
十和子を執拗に心配し、こまめに連絡を入れていたのはストーカーとかそういうものではなく、過去の十和子の行動を考えれば当然の事だった、という事も見えてきます。
陣冶はなぜ最後、あの選択をしたか
多分、二人の関係が破滅的だったからでしょう。
人はどこまでも自堕落になれるし、それを許してしまう人間がそばにいると、状況は上向いていかないんですよね。
本当ならそばにいて、十和子がしっかりしていければ良いんだけど、多分陣冶ではそういう相手にはなれなかったと思うんです。
だから二人の間に特別な愛があっても、ずっと一緒にいるわけにはいかなかったのかなぁと。
陣冶は自分の全てを犠牲にして十和子を守っていたけど、でもそれもずっとは続かない。
今後黒崎の死体が発見され水島の証言などから十和子の罪が明らかになるかもしれません。でも、本当はそうでなくてはいけない。本来なら罪は犯した本人が償うべきだからです。
彼が全てを犠牲にし、自分の命を断ってでも彼女から離れる事で、彼女はこれから先、再び自分の足で歩いて行けるようになると信じたのでしょう。
飛び降りる直前に言っていた
「陣冶は十和子の子どもになって生まれてくるから。陣冶を育てるんやで」
という感じの台詞は結構な気持ち悪さがあり、とても陣冶らしくて良い台詞ですよね(褒めてます)
彼女が罪を償い、きちんとした生活を送り、本当に幸せになれる相手を見つけて、いつか子どもを作り育てる。そんな先までを呪うようにしながら死んでいった陣冶。
決して後味の良い終わりではないんですが、エンドロールが流れる頃には観客は間違いなく「愛」を感じているはず。
まとめ
イヤミスながら心が変に温かくなる、不思議な映画でした。
十和子には最初から最後まで苛立ちますけどね!!
阿部サダヲと蒼井優の主演二人のハマりすぎている名演技もですが、助演のクズ男たちの演技もなかなかに素晴らしいので、その辺にも注目して頂きたいです。