「我々で、客を泣きながら帰らせてやろう」
ほんっとうにキノフィルムズさんは気になる映画ばかりを配給されている・・・!
この映画は確か、地元の映画館で『否定と肯定』を観た時に予告編でやっていた作品なんですよね。気にしつつもいつの間にか終わっていたので、レンタルにて鑑賞しました。
監督は『17歳の肖像』や『ワン・デイ 23年のラブストーリー』のロネ・シェルフィグ。女性の監督です。
ちびぞうの大好きなビル・ナイが助演として出ています!!楽しみ!!
公式サイトはこちら。
【映画情報】
【原題】Their Finest
【制作国】イギリス
【監督】ロネ・シェルフィグ
【脚本】ギャビー・チャッペ
【原作】リッサ・エバンス
【製作】スティーブン・ウーリー、アマンダ・ポージー、フィノラ・ドワイヤー、エリザベス・カールセン
【製作総指揮】クリスティーン・ランガン、エド・ウェザレッド、ロバート・ノリス、アイバン・ダンリービー、トーステン・シューマッハー、ピーター・ワトソン、ジギー・カマサ
【撮影】セバスチャン・ブレンコー
【美術】アリス・ノーミントン
【衣装】シャーロット・ウォルター
【編集】ルシア・ズケッティ
【音楽】レイチェル・ポートマン
【音楽監修】ローラ・カッツ
【出演([]内は役名)】
- ジェマ・アータートン[カトリン・コール]
- サム・クラフリン[トム・バックリー]
- ビル・ナイ[アンブローズ・ヒリアード]
- ジャック・ヒューストン[エリス・コール]
- ヘレン・マックロリー[ソフィー・スミス]
- ポール・リッター[レイモンド・パーフィット]
- レイチェル・スターリング[フィル・ムーア]
- リチャード・E・グラント[ロジャー・スウェイン]
- エディ・マーサン[サミー・スミス]
- ジェレミー・アイアンズ[陸軍長官]
- ジェイク・レイシー[カート・ランドベック]
【公開日(日本)】2017年11月11日
【上映時間】117分
【配給】キノフィルムズ
【映倫区分】PG12
【IMDB】6.8/10.0 (およそ13,015人の評価)
【あらすじ】
1940年のロンドンでカトリンはコピーライターの秘書として働いていた。人手不足のため、彼女が代わりに書いたコピーが情報省映画局の特別顧問バックリーの目に留まり、ダンケルクでドイツ軍の包囲から兵士を救出した姉妹の感動秘話を映画化する脚本チームに加わることとなった。戦争で疲弊した国民を勇気づけるための映画だったが、製作が開始され、ベテラン俳優のわがまま、政府と軍による検閲や横やりなどトラブルが続出。そのたびにカトリンたちの脚本は二転三転してしまう。なんとか撮影は大詰めを迎えるが、最後に最大級のトラブルが待ち受けていた。【引用元:映画.com】
【感想(ネタバレするよ!)】
☆3.7/5.0
面白かった!良かった!さすがのキノフィルムズさんの安定感!(笑)
映画好きな人なら、古い時代の映画作りの方法などが見れてとっても興味深いと思います!
物語も、タイトル通りシネマティック(映画のような信じられないような事が次々に起こる)。
その中にも笑える要素がたくさん散りばめられていて、かつ理不尽で残酷で、まるで人生そのものを映し出したような映画。
「ダンケルクでの戦いで兵士を救ったとされる双子の姉妹の映画を作る」という軸があるので、ノーラン監督の『ダンケルク』を観てから鑑賞するとより理解が深まるかもしれませんね!世界観に没頭しやすくなるというか。
主人公の女性は男性より給料が半分以下だったり、女性にしか書けないというスロップ(映画で女性同士がする会話をそう呼んでいた)を任されるんですけど、そこらへんサラッとくどくない程度に女性差別の実態みたいなものも描かれていましたね。
おおまかなストーリー
あらすじに補足するような感じで核心のネタバレをしていきます!(笑)
まず最初に主人公のカトリン(ジェマ・アータートン)が双子の姉妹に会いに行くと、彼女たちはエンジンのトラブルで船が出せず、ダンケルクの兵士を救ってはいなかった・・・(むしろ動けなくなっていたところを帰還する船に牽引してもらった)ということが真実であったと判明します。しかし双子はその事実が恥ずかしく、周りが騒ぐような美談だったと嘘をついていたらしい。
しかしカトリンはお金をもらうために仕事を続けねばならず、この事実を隠して映画製作をスタート。
空襲も来るなかで脚本を書くカトリン、老年の俳優は我儘放題だし、一緒に暮らしている恋人は浮気をするしで色々と大変ななか、同じ脚本チームのトム(サム・フラクリン)と良い感じになっていくカトリン。
映画製作の途中で、船はダンケルクに着かなかった、ということが上に発覚、製作中止の危機に立たされる。
しかしトムが、「たった1つの実話に基づいてなくていい、ダンケルクの兵士が民間の船に助けられ数十万人が帰還した、そこには100の実話がある。その中の一つでも映画に入っていれば良いんだ」的なけっこう強引な説得で情報省の人を納得させ、映画作りを続行。
他の映画でもよく見る「実話に基づくストーリー」という触れ込みの一体何割が真実なんだろうと若干疑いたくなる場面でした・・・(笑)
脚本は完成するものの、ラストシーンにパンチが足りないと書き直しを要求される。
(ここの、アメリカ人を馬鹿にするわけではないがと前振りをしつつ、「奴らは爆破、衝突、角を勢いよく曲がる救急車みたいなものが好きなんだ、彼らの好む展開にしろ」と言われるシーンは笑ってしまいました。国民性で求めるストーリーって違うんだなぁ)
ラストシーンの執筆に行き詰まるトム。代わりにカトリンが脚本を書き上げ、あとは撮影を終わらせるのみ・・・二人の恋愛も上手くいき、これからラブラブするぞ!というそんな時スタジオが空爆に襲われ、目の前でトムを亡くしてしまうカトリン。
スタッフに死傷者が出て映画の撮影も停滞、カトリンは映画業界から身を引こうとするも、老年俳優ヒリアード(ビル・ナイ)が説得しにやってくる。
ヒリアードの言葉に心を動かされたカトリンは撮影現場に復帰、公開すれば映画は大成功。
その後もカトリンは映画作りを続けていく。という感じで映画が終わる。
良かったところ!
映画が始まってすぐに”メインの軸になる物語が実際は全然違った!”というのが発覚するのが良い意味で期待を裏切られて好きでした。まずそこで「ここからどうするの!?」と興味を持ち物語に引き込まれますね!
当時の映画(脚本)の作り方?も面白い!例えば
- ジョニー(最初)
- 犬→ダンケルク→エンジンの故障→叔父の死
- 無事に帰還(最後)
こんな感じでいくつかキーワードを出し、話の流れをおおまかに決め、その間を埋めて行くというやり方で作られていました。一人で一から百までやるのではなく、皆で意見を出し合いながら構築するっていうやり方もあるんですね~。
その中で、最初はエンジンの故障だったのに「それだとイギリスの造船技術がちゃんとしていないと思われる」と言われスクリューに何かが挟まって動かなくなる、という筋書きに変更されたり、上で書いたようにアメリカ人の好みに合わせてエンディングが変更されたり、女性は活躍させられないからスクリューは叔父が直すという流れにしようと言われたり、大人の事情ってやつで脚本が作られていくのがよーーーく分かります。映画製作って本当にたいへん・・・
脚本だけでなく、キャスティングにも大人の事情が大きく絡んでいました・・・。
陸軍省の命令でアメリカ人の軍人を起用しろと言われてとても見栄えのする軍人さんを連れて来たのはいいもの、絶望的に演技が下手・・・!!!
観てる側としては笑えるんですけど、作り手としては本当に大変ですよね(笑)
ビル・ナイ最高!
『ラブ・アクチュアリー』の頃から好きな俳優さんの一人、ビル・ナイ。
齢66歳にしてこのカッコよさ・・・なんなの・・・。
彼の演じるヒリアードという役がまた良いんですよ。
無駄にプライドが高くて扱いにくい低迷期に突入した高齢の役者。過去にヒットした1キャラクターの栄光にしがみついていてどこかもの悲しい。自分は主人公のジョニーを演じるものだと思い込んでいて蓋を開けてみれば酔いどれクズな叔父の役。こんなのやれるか!と不満たらたらの彼をカトリンはしっかりと尊厳を尊重しながら懐柔し、やる気にさせる。
するとその実力は本物で、この映画の公開後も演技の仕事がまた入るようになるという。
このヒリアードという役は劇中でしょうもない老いどれ役者、という立ち位置から徐々に変化し、最後はカトリンの父のような役割も担うようになるという重要で味わいの深い役。
彼がやる気になった時に言った「我々で、客を泣きながら帰らせてやろう」という台詞も良かったし、
トムを亡くして映画業界から離れようとするカトリンを説得しに行った時の
「我々のようなもの(老人や女性かな)に仕事が回ってくるのは若い男が戦争で死んでいるから。彼らが死んで得たチャンスを無駄にするのは、死に生を支配されている状態だと思わないか」
うろ覚えなんですけれど、この台詞もすごく良かった・・・。
それから、ビル・ナイの歌声も聴けます!すごく渋カッコいい!!66歳サービスしまくり!!
まとめ
空爆されながらのすごく過酷な環境下での映画製作なんですが、映画自体はとてもコミカルであまり重さがなく、笑えるポイントもたくさんあるし、考えさせられる場所もあるし、
何より強い女性が頑張る姿が観れます!!!
これはぜひ、女性に観てもらいたいですね。
最後に、トムが語っていた台詞でちびぞうがとても心に残ったものがあるのでそちらを紹介して終わりたいと思います。
どうして人は映画を観ると思う?ちゃんとストーリーがあるからだ。悪いことが起きるのも仕組まれているし、それにも意味がある。人生とは違う。
たまにでいいから価値のある映画が作りたい。
―――その人の人生の一時間半を費やせるような。
映画が好きだという事がひしひしと伝わってきます。良い映画でした。