「この中ではすべての人が平等に権利を持ち、公平に扱われる」
劇中の美術館で行われる「ザ・スクエア」という展示。
これは”傍観者効果”という、誰かが助けを求めていた時にその場にいる人間が多ければ多いほど「自分じゃなくても誰かがやるだろう」と責任が分散してしまうという心理にスポットを当て、地面に引かれた四角い線の中でもし誰かが助けを求めていたら、その中にいる人はその人を「助けなければならない」という義務が生じるという実験的な展示だという。
こういった人間の根本的な善の心とそれに対して実際に動けるのかどうか?という部分にメスを入れ、皮肉をふんだんに入れ込んだ今作。さらりとあらすじを読んだだけでちびぞうは引き込まれてしまいまして。
最近、『万引き家族』が受賞したカンヌ国際映画祭のパルムドールを獲った作品のようです!!
地元の映画館で母と共に鑑賞してきました!
パンフはこういう感じ!
スクエアです。ちゃんと真四角。26Pで税込み800円。
UltRA Graphicsの山田裕紀子さんがデザインされています。中は黄色を基調としていてとってもオシャレ・・・!美術館をテーマにした映画だけあってスタイリッシュですね。
【映画情報】
【原題】The Square
【制作国】スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク合作
【監督/脚本】リューベン・オストルンド
【製作総指揮】トマス・エスキルソン、アグネタ・ペルマン、ダン・フリードキン、ブラッドリー・トーマス
【製作】エリク・ヘンメンドルフ、フィリップ・ボベール
【撮影】フレドリック・ヴェンツェル
【美術】ジョセフィン・アスベルグ
【衣装】ソフィー・クルネガルド
【ヘアメイク】エリカ・スペツィク
【音響デザイン】アンデシュ・フランク
【ミックス】アンドレアス・フランク、ベント・ホルム
【編集】リューベン・オストルンド、ジェイコブ・シュルシンガー
【キャスティング】ポーリーヌ・ハンソン
【挿入曲】ボビー・マクファーリン、ジャスティス
【出演([]内は役名)】
- クレス・バング[クリスティアン]
- エリザベス・モス[アン]
- ドミニク・ウェスト[ジュリアン]
- テリー・ノタリー[オレグ]
【公開日(日本)】2018年4月28日
【上映時間】151分
【配給】トランスフォーマー
【映倫区分】G
【IMDB】7.3/10.0 (およそ34250人の評価)
【あらすじ】
現代アート美術館のキュレーターとして周囲から尊敬を集めるクリスティアンは、離婚歴があるものの2人の娘の良き父親で、電気自動車に乗り、慈善活動を支援している。彼が次に手がける展示「ザ・スクエア」は、通りかかる人々を利他主義へと導くインスタレーションで、他人を思いやる人間としての役割を訴えかけるものだ。そんなある日、携帯電話と財布を盗まれたクリスティアンは、その犯人に対して取った愚かな行動によって予想外の状況に陥ってしまう。【引用元:映画.com】
【感想(ネタバレするよ!)】
☆3.5/5.0
社会やSNSに対する風刺、ブラックコメディ、矛盾への指摘と・・・満載で考えられさせられることばかり!!!すごく面白かった!
北欧の、スウェーデンという国は福祉に手厚い、というような印象を持ってる人は衝撃を受ける”真実”がこの映画にはありました。
主人公のキャラクターが良い!
主人公は映画の序盤で「男に追われて泣き叫んでいる女」を助けようとするんですが、実はそれは詐欺師の罠で、財布とスマホを盗まれてしまう。
スマホのGPSで大体の位置は掴めるものの、団地のどの家の人が盗んだのかまでは分からない。困った主人公が部下に相談すると「私はお前の住所も把握している。私から盗んだものを全て返さないと・・・」という脅迫めいた文章を打った紙を全世帯のポストに入れて回りましょう!というハチャメチャな提案をされ、それを仕方なく受け入れることに。
この方法もアホっぽくてなぜ警察に頼らないのかが不思議なんですが・・・ともかく主人公はその作戦を決行する。そして盗まれた財布とスマホは戻ってくる。一件落着・・・かと思いきや!後日、その手紙のせいで両親に泥棒扱いされてしまったという男の子が主人公の前に現れる。
しかし主人公は彼の両親に電話で説明してやろうともせず、帰れと追い払うばかり。揉み合って階段から落ちてしまった様子の男の子も助けない。
このように「ザ・スクエア」の展示を企画した主人公が、自分の社会に対する”善の意識”を私生活で別の人間にしっかりと行動で示せているかと思えばそうではないんです。
富裕層と貧困層の人々では、住んでいる場所が区分けされていて、富裕層に属する主人公は貧困層の住む団地の人間を見下しているし人間扱いをしていない。そこの矛盾がこの映画で何よりも大きく、一番の風刺ポイント。
パンフレットには、「善行は心に余裕のある者しか行えない」的な事が書いてありましたがこの主人公がまさにそれで、序盤に困っている人を助けようとした時の心理状態と、中盤、男の子を追い払おうとする場面での心理状態では大きな違いがあり、「自分に余裕がないと人は助けられない」というのを上手く表現していましたね・・・。
主人公はラストで、男の子の家に電話をかけたり、謝罪する動画を撮ったり、娘たちと一緒に団地へ出向いて彼の家を探したりするんですが・・・すでに男の子の家族は引っ越してしまっていました。
謝罪することの出来なかった主人公の後ろ姿を娘が見つめます。しかし主人公は振り返らないのでどんな表情をしているかは分からない・・・そして映画は終わります。
ちびぞうはこの理想とする生き方を実際には出来ていないという矛盾たっぷりの主人公が物語全体を面白くしていて非常にいいキャラクターだと思いました。
ラストでそんな自分に気付いて終わる、という形だと思うんですけど、表情が分からないので主人公が人間的な変化をしたのかどうかは観客に委ねられます。
ちびぞうは良い方に変化したと思うんですけどね・・・。
モンキーマンの演技がすごい!!
パフォーマー・オレグとして登場するテリー・ノタリーは『猿の惑星』や『キング・コング:髑髏島の巨神』などで活躍するモーション・キャプチャー俳優。
こちらの猿の惑星の記事でテリー・ノタリーの写真が見られます。
今作では、展示のお披露目パーティが開催され、そこにゲストとして招かれた猿人間として登場しますが・・・この猿の演技が本当にすごい・・・。そしてこの猿の演技に会場の気まずい空気もものすごく辛い!!しかも結構な長回し・・・。
この場にいたら本当に恐ろしいなと思いました・・・。
この映画はこのシーンだけでも観る価値ありです!!!
って言っても過言ではないです。それくらいインパクトのあるシーンでした。
まとめ
スウェーデンの社会にメスを入れるための皮肉や風刺たっぷりのブラックコメディを軸にした、ヒューマンドラマという感じですね。
笑えるシーンと笑えないシーンのさじ加減が上手ですし、気まずいシーンは本当に気まずい。
観終わった後は色々と考えさせられます。
「ただのバッグでも美術館の1コーナーに飾れば芸術品となり得る」・・・という台詞を聞いて、『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』を思い出しました。
美術館やアート界に興味がある人にもオススメです!