「飛べるのになぜ公園から出ない?」
「”あなたこそなぜ?”って」
神様から「あなたの余命はうん年です」ってメールが届いちゃってどうしよう!っていうお話ですねー。
カトリーヌ・ドヌーブがゴリラとベッドインとかなかなか挑戦的なシーンがめいっぱいの本作です。カンヌを始め様々な映画の賞に輝き、海外では高く評価されているみたいですね!
原題は「新・新約聖書」、思ったよりも宗教色が強い哲学的なメッセージも含まれていますが、そこまで深く考えて観なくて良い一面もある不思議な作品(笑)
劇場で観られなかったので、DVDで鑑賞しました。
【映画情報】
【原題】Le tout nouveau testament
【制作国】ベルギー/フランス/ルクセンブルク
【監督】ジャコ・バン・ドルマル
【脚本】ジャコ・バン・ドルマル/トーマス・グンズィグ
【出演([]内は役名)】ピリ・グロワーヌ[エア]、カトリーヌ・ドヌーブ[マルティーヌ]、ブノワ・ポールヴールド[父/神]、フランソワ・ダミアン[フランソワ]、ヨランド・モロー[母/女神]
【公開日(日本)】2016年5月27日
【上映時間】115分
【配給】アスミック・エース
【映倫区分】PG12
【IMDB】7.2/10.0 (およそ19,000人の評価)
【あらすじ】
ブリュッセルの街に家族と一緒に暮らしている神様は、自分の部屋のパソコンで世界を管理し、面白半分で事故や災害を引き起こしている。そんな父に憤慨した10歳の娘エアは、それまで一歩も出たことがなかった街に出ることを決意。しかし、家出の前に立ち入りを禁じられている父の部屋に忍び込んでパソコンを触った彼女は、間違えて世界中の人々に死期を知らせるメールを送信してしまう。エアは人間たちを救済しようと街に繰り出し、そんな娘を追って神様も街に出るが……。【引用元:映画.com】
【感想/ネタバレしてるよ!】
☆3.5/5.0
シュールな世界観
主人公のナレーションですすむ、シュールな世界観!まず「神が実在してブリュッセルに住んでる」「そして神が私の父」なんて設定からして突拍子もない。
父なる神よ!にかけたギャグですかね!
オープニングでは、創世記から順を追って「最初にブリュッセルを創った」「色々な種を創ったがうまくいかなかったと」と主人公の世界での創世が語られます(笑)
誰もいない街中をキリンが歩いたり
映画館でニワトリのカートゥーンアニメを鶏が観ていたり
ダチョウがスーパーにいたり
その後、神に似せて創ったという人間が登場するんですが、ここも面白い。
股間を隠すための黒い横棒に気付いて、引っ張ったり押してみたり、外せないかと試みるんです(笑)
たくさん並んでいる本はすべて真っ白だったり(まだ人類が発展していないから?)とか、本当に発想が楽しいです。
そのあと、最初の人間は胸に”イヴ”と書かれた名札を貼り付けている女性(笑)と出会い、人類をどんどん増やしていきます。
これらの場面だけで”この映画はこういう内容ですよー!”というお知らせがバッチリ出来ている素晴らしいオープニングですね(笑)
とにかく父(神)がひどい
子どもや妻に対する態度が悪い最悪な人物で、怒鳴り散らす、娘がシャワー中でも平気でカーテンをあけるし、母親には「一言もしゃべるな!」と命令し、怒るとベルトで鞭打つようなクズなんです。
しかも神さま業に飽きている。気分転換に人間を創り、彼らを自分(神)の名の元に戦争させたり、苦しめて楽しむためだけに”普遍的な不快の法則”を作ったりしています。
- 「必要な睡眠の長さは”あと10分”である」
- 「バスタブに身を沈めた途端、電話が鳴る」
- 「ジャム付きパンはジャムの側から床に落ちる」
- 「食器は洗ったあとに割れる」
- 「(スーパーのレジで)隣の列の方が必ず速く進む」
- 「イヤな出来事はいくつも同時に起きる」
なるほど!となりませんか、こういった不快な出来事は全部神のせいだったんですねぇ(笑)
神の娘エアちゃんが奮起する!
息子であるキリストの妹、知名度の低い神の娘というのが主人公エアちゃんの立ち位置。普段から父との生活にウンザリしており、ある日父のパソコン(これがないと神は何も出来ない)を見て神に苦しめられている人々の事を知る。そして「使徒を見つけて世の中を良くしたい、父よりうまくやりたい」「その前に父に復讐したい」と
パソコンから世界中の人々に”余命宣告をするメール”を送り、洗濯機の奥のトンネルから街へと出ていきます!
この時、兄であるイエスキリストの像と会話をするシーンがあるんですがそこも楽しい。
呼びかけると「やぁ妹」と動き出すイエス(笑)
下界が大変な事に
余命宣告が本物だと気付いた人間たちは大パニック。
余命2分の人は身の回りを整えて死なないようにし、余命102年と宣告された男性は「最長寿だ!」とウッキウキでニュースに出る。
最高ですねこの顔(笑)
逆に、余命62年と宣告された男性が「テストだよ!」と窓から飛び降りてみせる様子も。彼は当然怪我は負いますが死ぬことはありません。
余命をどう生きるかが人々の課題になって、戦争も止まりました。
ダウン症の息子よりも遥かに早く死ぬと知ってしまった母親が、息子を殺そうとする場面があったりと結構シビアなシーンもありました。
ちなみに、メールを受け取った瞬間に事故って死んでしまうドライバー役に監督ご本人がカメオ出演されています(笑)
この人。
新・新約聖書つくり!
兄に「6人使徒を見つけて奇跡を見せ、聖書を書かせなさい」とアドバイスを受けたエアは、適当に選んだ6人と対話をします。
これが物語のメイン部分。
6人の使徒の語るそれぞれの人生をホームレスのヴィクトールに書き留めさせ、それを新しい聖書にした。
エアは「人それぞれ音楽を持っていて心臓の鼓動を聞くとそれがわかる」と心音を聞いて「あなたの音楽はこれよ。今夜は夢を見させてあげる」と彼らに幻想的な夢を見せるんです。その場面がまた難解だけど美しい。
手首が踊るシーン。意味はわからないですが(笑)印象的でした。
彼らの残された時間をエアは少しだけ充実したものに変えてあげた。
- 一人目の使徒、オーレリーは本当の自分を愛してくれる殺し屋フランソワと出会う事で、運命の恋に落ちる。
- 二人目の使徒、ジャン=クロードは今までの退屈な人生を捨て、鳥と共に旅に出る。
- 三人目の使徒、マルコは子どもの頃に夢中になった女性と再会する。
- 四人目の使徒、殺し屋フランソワはオーレリーと出会い初めて人を愛す。
- 五人目の使徒、マルティーヌはゴリラと真実の愛を育む。
- 六人目の使徒、病弱なウィリーは、女性になりたいと女装をはじめ、死に場所を求めて海へ旅立つ。
どれも、今までの人生とは違った一歩を踏み出すことだったんです。
これが兄が見せろといった奇跡なのかもしれませんね。
追いかけてきた父(神)、ボコボコにされる
事態に気付いた父は
「余命を知る前は人間は神に弱みを握られて慎重に行動していた、なのに余命を知った今は大違いだ、好き放題してる!」
と激おこになりエアを追いかけて街に来るんですが、なにせ彼はパソコンがないと無能。若者にボコられホームレスにボコられ、保護された教会で信心深い神父になぐさめられるも、息子のキリストは思い付きで色々言った自分の言葉ではないと否定。神父の人生に起きた不幸をつらつらと語り「全て俺がやった!」と言って神父にボコられる。
本当に救えないクズ親父ですよ彼は。父親である前に性格が完全に破綻してます。
この”父(神)像”に隠されたアンチ宗教的なメッセージがまた深い。「神(運命)なんて本当は無能なんだ。ボコボコにして、好きに楽しく生きようよ!」って事なんだろうなと私は受け止めました。
ラストシーンは本当にやりたい放題
エアが使徒を18人に増やしたことで、ママンが女神となって世界を創り変える展開になるんですが、そこから先がもう本当にやりたい放題(笑)
空の模様は花柄に変わるし、引力の向きも変わり、人間は海底でも息が出来るように、ゴリラとも子供が持てるようになって、男性も妊娠できるようになる。
そして肝心の新・新約聖書は絵だけになる!(笑)
人々の余命宣告もなくなり、「いつ死ぬのかわからない世界」に戻る。
エンドロール後に、窓から飛び降りたりしていた彼のその後が描かれるので、そこも必見です!(笑)
小ネタ
原題の「新・新約聖書」とあまりにもかけ離れた邦題に文句殺到だったそうで。それの関連で「ボツになった邦題案」を載せているニュース記事がありましたのでリンクしておきます。
個人的には惜しくも決定には至らなかったという「ハッピーバイブル」とかが良かったかなぁー。「神様メール」も可愛くて個性的で何より覚えやすくて良いと思いますけどね!
まとめ
神の存在を人間に置き換えてコミカルに皮肉ったファンタジックコメディでしたね。人を選ぶ一面はあるかもしれませんが、シュールな世界観も美しい音楽も、そこに込められたメッセージも前向きでパワフルで、私は好きです。
主題歌のJours Peinards – An Pierléもすごく可愛らしくて、何度でも聴きたい良曲です!
日本訳の歌詞がこの映画の全てを物語っていると思うので載せておきますね。
もうウンザリ 家を出てやる あんな父親から遠く離れて
だって父親のくせに 私がしくじることを望んでるなんて
決めたんだ 逃げ出してやる
袋小路の日々にサヨナラしよう 二度と戻らない
毎日楽しく 好きに生きよう
太陽の下 気ままな暮らし 何があっても平気 愛を探しに行こう
悲しくなんかない つらいことが待っていても
ほんとよ 運命に挑戦しよう どこまでも 愛へと続く道に飛び込もう
太陽の下 気ままな暮らし 何があっても平気
美しい人生 負けない勇気 愛のためなら何も恥じない
もうイヤよ 暗闇に生きるのは